◆近代建築における「時」の伝承

 堺筋は御堂筋が拡幅されるまでの大阪のメインストリートですが、この筋には幾つもの往時を偲ぶ近代建築が今でも残っています。北浜から日本橋までの堺筋のほぼ中間、中央大通りより少し南に、旧銀行をレストランとして再生し活用している建物があります。
 「堺筋倶楽部・アンブロシア」(南船場)がそれです。1階がイタリア料理、2階と3階がフランス料理となっています。この建物、大正ロマン覚めやらぬ昭和初期に川崎貯蓄銀行大阪支店として建設されたもので、矢部又吉の設計とのことです。外観のライトアップや旧銀行の金庫室をワインセラーとして活用するなど、保存活用と話題づくりで工夫していますが、1階ホールの壁には往時の時計がそのまま掛っています。時刻は11時55分。銀行最後の取引の時刻を指したままにしていると言われています。レストランに壁時計は通常タブーだそうですが、ここではあえて「時」を伝えたいと存置しているのだそうです。

(2013年3月)
 

堺筋倶楽部・アンブロシア外観
堺筋倶楽部・アンブロシア外観
アンブロシア内に残る時計
アンブロシア内に残る時計
堺筋倶楽部の玄関
堺筋倶楽部の玄関

 また堺筋には他にも「生駒ビルデング」、「高麗橋野村ビルデング」、「新井ビル」など雰囲気を伝える近代建築があります。「生駒ビルデング」(平野町)は元「生駒時計店」で、アールデコ調の建物の屋上に時計塔があります。現在内部はコラボレーション型のレンタルオフィスとして活用されていますが、1階エントランスに時計塔から外された「鐘」が置いてあり、かつて北浜界隈に響いた澄んだ音色が今にも聞こえてきそうです。(2013年3月)

生駒ビルデング外観
生駒ビルデング外観

生駒ビルデング1階の鐘                                     (写真撮影:室井明)                  
生駒ビルデング1階の鐘                                    (写真撮影:室井明)