●「水都モデル」への挑戦
(3)アートがまちを再生する!
「アート」にはまちを変えるパワーがある。
=NPO法人大阪再生プラットフォーム役員 室井明(記)=
アートの持つこの力を活用し再生に成功している都市や地域がある。最も代表的なのはフランスのナント市。人口約30万人の仏西部の都市であるが、旧ビスケット工場のアート拠点へのリノベーション、レ・マシーン・ド・リル(動く巨大アート)、三大陸映画祭、ラ・フォル・ジュルネ(「熱狂の日」音楽祭)などの数多くの文化プログラムを推進することにより衰退の危機から都市を蘇らせた。
国内事例を見よう。瀬戸内海を舞台に2010年から3年に1回開催されている「瀬戸内国際芸術祭」。過疎化・高齢化が進む島々が、アートの力により人々から注目され地域が活力を取り戻した。再生の象徴は、直島の東側に位置する豊島(てしま)。産業廃棄物の不法投棄によって一時は「ゴミの島」として悪名を馳せたが、アート作品や美術館により、文字どおり魅力的で豊かな島に生まれ変わった。
大阪でも、アートのポテンシャルに着目した取り組みが始まっている。きっかけとなったのは「水都大阪2009」だが、ヤノベケンジ氏の竜の口から火を噴くアート船「ラッキードラゴン」、オランダのF・ホフマン氏のアート作品「ラバー・ダック」などは水都のシンボルとして水辺ファンの人気を博している。
大阪府府民文化部の「おおさかカンヴァス推進事業」。まちをアーテストの想いを実現できる場と位置づけ、新たな都市魅力を創出する事業である。中之島公園に突如出現したこけしの「花子ちゃん」、川を巨大な回転寿司にみたてる「ローリングスシー」、公園のトイレをホテルに変えた「中之島ホテル」などユニークな作品が数多くある。この事業は、全国知事会政策コンテストで大賞を受賞(2014年)したが、これはアートがまちづくりに貢献することを全国のお堅い行政マンが認めたことを意味している。
民間でも動きがある。例えば、「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」。不動産会社を母体とする「おおさか創造千島財団」が中心になり、かって造船の町として栄えたこの地域をアートの力で芸術文化創造拠点にしようという取組みである。街の活性化により地域に貢献すると同時に、不動産の価値を高めようという試みだ。NAMURA ART MEETINGの開催、「ラバー・ダック」の制作、空き倉庫の大型アート作品ストレージ基地への転用、空き家のクリエーターやアーテストの発信基地としての活用、街角アートの制作など、幅広い活動は注目に値する。
面白いことに、冒頭のナント市と大阪とは共通点が多い。①ともに国内有数の大都市である点、②かって重工業で栄えたという歴史的条件、③首都からの距離感(ナントはTGVでパリから約2時間)等である。ナント市は、文化振興策により、「欧州で最も住みやすい都市(米タイム誌)」との評価も受け、新しいビジネスの誘致という効果も生んでいる。「水都モデル」を成功させ、大阪を再生するためには、アートの持つ力を大いに活用すべきであり、大阪と類似性があるまちがアートで都市再生に成功したことは、見習うべきであるし、また大変心強い筈である。(第3回完)