(時事随筆) 「SDGsと書籍」
SDGsが、2015年9月に国連サミット採択されてから、今年で7年目となるが、様々の分野でSDGsという言葉をよく見聞きする。先日、小学3年の孫に、「SDGsって知っているか」と聞いてみた。予想に反して「知っているよ、17個の目標とかあるヤツでしょう。」と当然のごとくと言うので驚いた。神木隆之介と二階堂ふみがTVで歌う「SDGsのうた」で知ったらしい。
TVだけでなく出版物も多くなってきた。書店では、沢山の成人向けSDGs書籍が揃っているが、子供コーナーにもカラフルな本が何種類も並んでいる。その中から「こどもSDGs☆なぜSDGsが必要なのかがわかる本☆」(※1)を買ってみた。17の目標や169のターゲットも説明されており、大人向けと遜色ない内容である。違う点は漢字にルビが振ってあるぐらいか。解説本のほか、SDGsに関する書籍は、企業経営、まちづくり、地方創生、環境問題、食糧問題から漫画までジャンルは多様だ。
大変興味深いのは、江戸時代に関する書籍である。SDGsが国連サミットで採択されるずっと以前に、江戸時代を循環型社会として注目していた書籍がある。1990年代から2000年代に書かれた、石川英輔(※2)の大江戸シリーズである。「大江戸えねるぎー事情」、「大江戸リサイクル事情」、「大江戸えころじー事情」等の本で、「江戸時代の日本はすべてを循環させる植物国家である」といい、豊富な事例やデータで挿絵とともに書き記している。
例えば、江戸には、今で言うところのリサイクル業者が沢山いて、資源循環に一役も二役もかった。彼らが積極的に町中を巡回し、いろんな物を修理したり集めてくる。提灯張替え、錠前直し、鏡研ぎ、鋳かけ屋(鍋釜の修繕)、瀬戸物の焼き接ぎ、下駄の歯入れなど様々の「修理業者」。あるいは、紙屑買い、紙屑拾い、灰買い(灰は肥料や藍染め等に使う)、肥汲み、古着屋などの「回収業者」である。(※3) 彼らは専門化・組織化していて、例えば古着商の組合メンバーは、享保8年に1182軒もいたという記録がある。そういう仕組みによって循環型社会が成立していた。象徴的なのは、下肥(つまり人間の排出物)である。下肥は農村の貴重な肥料であり、契約した地域や屋敷に農家が定期的に汲み取りにいき、お金を払うか野菜と現物交換をした。大家と店子が排泄物の所有権をめぐって争ったとか、下肥の価格上昇に困った農家が値下げを幕府に訴願する騒ぎも起こったと言うから、その貴重さや社会構造がわかる。一方、パリやロンドンでは、夜中に「おまる」の中身を道路に放り投げた。さすがに「そらいくよ」と声を挙げるのが暗黙のマナーであったとか。結果、悪臭はもとより、ペスト等の伝染病が繰り返し大流行した。あまりのことにパリから逃げ出した王室が、ベルサイユ宮殿で華美な生活を始めたことが、フランス革命の原因にもなった。このように、江戸とパリ・ロンドンとは真逆で、江戸は環境先進国であった。
最後に、江戸の素晴らしさを海外に紹介した書籍について書く。イエール大学で日本建築やデザインを研究したアズビー・ブラウン(※4)が、2009年に書いた「Just Enough」(和訳本のタイトルは「江戸に学ぶエコ生活術」)の中で、江戸時代が如何にサスティナブルな生活スタイルをもっていたかを精緻に明らかにしている。「Just Enough」は、「足るを知れ」という意味だ。
江戸時代という持続可能な社会に生きた先祖を持つ日本人だからこそ、人類の将来、地球の未来について、もっと力強く情報発信すべきであろう。
2022.2 A.M
※1 「こどもSDGs」2020.8初版、発行所:(株)カイゼン、秋山宏次郎監修。
※2 石川英輔(エイスケ):1933年京都府生まれ。作家、江戸文化研究者。1990年刊行の「大江戸でねるぎー事情」が反響を呼ぶ。江戸時代を題材にしたエッセイを多数執筆。
※3 石川英輔は、以下の3種類に分類している。「職商人(ショクアキンド)」、「修理再生専門業者」、「回収専門業者」。「職商人」は、修理・新品販売・下取りをすべてやる職人かつ商人という独特の業態。
※4 アズビー・ブラウン(Azby Brown):1956年米国生まれ。イエール大学で日本建築を研
究。1988年東京大学大学院建築学科を修了。金沢工業大学未来デザイン研究所創業者。
1985年以来日本在住。「Just Enough」の副題は、lessons in living green from traditional Japan.