(オピニオン)ポストコロナ社会のまちづくり --リビングラボと市民参加---
ポストコロナの時代は、ICT、AIなどの革新的な進歩により、社会は大きく変わる。まちづくりにおいても、交通、防災、環境、エネルギーなどあらゆる面での変貌が想定される。
「市民とまちづくり」という視点から、私が注目しているのは、リビングラボ(Living Lab、以下LLと略す)という手法(仕組み)である。直訳すれば「社会空間実験室」という事になるが、「まちの主役である市民が主体となり、暮らしを豊かにするサービスや物を生み出す活動」である。もともとは米国で1990年代に生まれた概念だが、北欧で急速に発展し、最近では日本でも導入されてきている。
わが国の事例では、例えば、鎌倉LL。鎌倉市今泉台地区の住民が行政(鎌倉市)、大学(東京大学)、企業(三井住友FG他)と連携し、平成29年から活動しているもの。ここで、最初に取り組んだのは、高齢者が使いやすい薬剤パッケージの商品テスト(ベルギーの製薬メーカーから依頼を受けたもの)。他にも、定年後世代向けテレワーク家具の開発(イトーキが参加している)、女性用シャンプーなどパーソナルケア商品の開発、生活支援ロボットの開発など活動は多岐だ。他のLLとしては、仙台市(フィンランドと協働による健康福祉プロジェクト)、長野県塩尻市(企業支援と人材育成)、川崎市(介護の生産性向上)などがある。
大阪では、関西大学LL、大阪コモングラウンドLLがある。関西大学LLは、大学
、吹田市、国立循環器病研究センター等が連携して健康まちづくりを目指すもの。大阪コモングラウンドLLは、大阪商工会議所や異業種企業が、天満橋の中西金属工業敷地で取り組んでいるもので、人とロボットが共に暮らす未来のプラットフォームの実現を目指す実験場。大阪万博を見据えた活動である。
私が、まちづくりの手法としてLLに着目している理由は以下である。
1)ボトムアップを試みる市民とトップダウンの行政の「対立図式」としてではなく、「市民目線の取り組みであると同時に、行政の課題解決に繋がる」取組みである点。
2)「共創」がコンセプトであり、実際、多くのLLが、市民・行政・企業など多くのステークホールダーが連携した実験場となっている点。また、ファシリテーションの方法など支援をする仕組みが組み込まれていることも評価できる。
3)日本では、LLの分野はまだ限定的なようだが、世界的に見ると、Health&Wellness、Social Innovation、Social Inclusion、Smart Cities、Energyと幅広く実施されており、将来、わが国でもジャンルは広がりそうである点。
4)デジタル社会においては、セキュリテイやプライバシーなど懸念される課題がある。LLはその課題に対応できる可能性のある仕組みである点。このように、市民が主体となるまちづくりの手法としては、LLは非常に有効であるように思える。ポストコロナ社会のまちづくりとして期待できるのではないか。
最後に、大阪コモングラウンドLLについて。このLLは、異企業連携による技術革新を目的としたもので、市民参加という要素はあまりない。大阪万博は折角のチャンスであり、これを機にこのLLとは別に、市民参加型まちづくりのLLを立ち上げてはどうか。テーマは、環境、エネルギー、空間づくり、健康など色々考えられる。共創のまちづくりの見本として、また、デジタル社会の課題解決の実験場として世界に示して欲しいものである。 2021.7 A.M