書評 「気候戦争の時代」  斎藤幸平著 

経済思想家で大阪市立大学大学院経済学研究科准教授の斎藤幸平氏が、気候戦争

としてロシアのウクライナ侵略を読みとく寄稿がAERAdot.2022.3.10)に寄

せられた。その概要は以下のようなものである。

必要となる「人新世」の概念

今回の戦争は、愚かな帝国主義的侵略であると同時に、「気候」戦争としての側面がある。自然的要因が社会的要因とますます切り離せなくなる人新世という時代においては、気候変動という視点から今回の戦争もとらえなおす必要があるのだ。

気候危機と新たな覇権争い

 長期で見たときのロシア経済にとって、脱炭素の時代は憂鬱(ゆううつ)の種

 だろう。ロシアは石炭、石油や天然ガスの輸出大国であり、経済は化石燃料の

  上に成り立っていと言っても過言ではない。

ロシアを襲う気候危機

G20サミットで、二酸化炭素排出削減を西側から求められたプーチンは、「ロシアの方がG7よりも削減している」「ロシアは砂漠化、土壌侵食、永久凍土融解といった複合的脅威に直面している」と危機感をあらわにしている。

狙われるウクライナの天然資源

人口4400万人のウクライナで、IT技術者は20万人にも及び、グーグルなどの海外企業からも多くの発注を受けている。IT先進国でもあるのだ。

 さらに、ウクライナは天然資源にも恵まれている。とりわけ半導体製造に必要

 な、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの原材料ガスの主要産出国

 である。ネオンガスにいたっては世界の70%もの量を供給している。

 ウクライナの食糧、資源、IT。これらは、まさにロシアが気候危機に直面す

 るなかでのどから手が出るほど欲しいものばかりだ。

深まる気候変動の危機

 悪いニュースは、これがロシアだけに言えることではない、ということだ。

 今後、気候変動が深刻化するなかで、水、食糧、資源、エネルギーをめぐる紛

 争や戦争の火種は増えていく。ウクライナ侵攻が始まった数日後、IPCCが第6

 次評価報告書の一部を成す3千ページ超えの文書を公表した。その最後の一節

 には切迫感がにじんでいる。

 「居住可能で、持続可能な未来をあらゆる人々に確保する『機会の窓』は急速

 に閉じつつある。気候危機への適応と気温上昇の緩和に向けて、先を見据えた

 世界的な協調行動が、これ以上少しでも遅れるならば、このわずかな機会を失

 うことになるだろう」

 戦争が長期化すれば、より多くの命が失われるうえに、この窓は永久に閉じる

 ことになる。                   2022.3 清水治彦