書評 「ファクトフルネス」
ハンス・ロスリング (著), オーラ・ロスリング (著), アンナ・ロスリング・ロンランド (著), 上杉 周作 (翻訳),関 美和 (翻訳)(日経BP 2019/1/11)
世間に広まっている誤ったものの見方と、その原因についての解説が秀逸な一冊。
FACTFULNESS(ファクトフルネス) の趣旨は「事実に基づいて世界の見方を広げること」にある。
例えば、世界を「先進国か、発展途上国か」と二分し、「世界は分断されている」という思い込みがちである。しかし、西洋諸国とその他の国々というイメージは、乳幼児死亡率、所得、民主化度合い、医療へのアクセスなどのデータを見れば世界のほとんどが中間にある事実から二分法の誤りは自明だ。
また、「世界がどんどん悪くなっている」というのは本当だろうか。貧困にある人は、過去20年で約半分になり、世界の平均寿命は70歳を超える。奴隷制度、石油流失事故、HIV感染、戦死者、乳幼児の死亡率、児童労働、災害による死者数、飢餓などは減り続け、女性参政権、安全な飲料水、識字率、予防接種などは増え続けている。物事のポジティブな面よりもネガティブなものに気づきやすい本能が災いしている。考えずに感じているだけだ。ネガティブなニュースに気が付くことが大切である。
このように筆者は客観的なデータを掲げ、多くの人が思い込みがちな10の視点を提示する。具体的には、
「世界は分断されている」
「世界がどんどん悪くなっている」
「世界の人口はひたすら増える」
「危険でないことを恐ろしいと考えてしまう」
「目の前の数字がいちばん重要」
「ひとつの例にすべてがあてはまる」
「すべてはあらかじめ決まっている」
「世界はひとつの切り口で理解できる」
「だれかを責めれば物事は解決する」
「いますぐ手を打たないと大変なことになる」
という思い込みだ。
しかし、ファクトフルネスを実践し、データや事実にもとづき、世界を読み解き、これら10の思い込みから解放されれば世界を正しく見るスキルが身につく。そのスキルを持って行動すれば世界はもっと前に進めるのである。
著作の末尾にはファクトフルネスの10のルールが次のように記されている。
「大半の人がどこにいるのかを探そう」
「悪いニュースのほうが広まりやすいと覚えておこう」
「グラフの直線もいつかは曲がることを知ろう」
「リスクを計算しよう」
「数字を比較しよう」
「分類を疑おう」
「ゆっくりとした変化でも変化していることを心に留めよう」
「ひとつの知識がすべてに応用できないことを覚えておこう」
「誰かを責めても問題は解決しないと肝に銘じよう」
「小さな一歩を重ねよう」。
そして筆者の最後の一言、「事実に基づいて世界を見れば、世の中もそれほど悪くないと思えてくる。これからも世界をよくし続けるために私たちに何ができるかも、そこから見えてくるはずだ」。現在はパンデミックの世界の人々に送る強いメッセージである。
2021.7 清水治彦